ひろぽん

ベイビー・ブローカーのひろぽんのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.9
借金を抱えながら古びたクリーニング店を営むサンヒョンと、「赤ちゃんポスト」がある施設で働くドンスは、本業の裏でベイビー・ブローカーとして働いていた。ある土砂降りの夜に、2人は若い女性が「赤ちゃんポスト」に預けた赤ん坊を連れ去る。だが、翌日戻ってきたその女性が、赤ん坊が居ないことを通報しようとしたため白状し、共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するために尾行を続けていた刑事は、静かに後を追う。果たして彼らの運命はどうなるのかという物語。


タイトルから想像すると赤ちゃんを高く売るプロのブローカーによる極悪犯罪系かと思っていた。だが、フタを開けると赤ちゃんを売るブローカーと赤ちゃんを捨てた母親が里親探しをするという心温まるロードムービーだった。そのため、人身売買という重そうなテーマも比較的観やすくまとまっている。

登場人物は犯罪者ばかりで犯している罪は酷いけれど、心が優しく憎めない人たちばかりで嫌いになれない。長くは続かないであろう彼らの里親探しの旅が尊く、このままずっと続けばいいのにと幸せを願っていた。

金儲けを企むだけでなく売買しようとする赤ん坊にさえ愛情を注いで世話をするサンヒョンの笑顔の表情は、生まれたばかりの自分の赤子を大切に育てるかのような振る舞いでとても心地よい。

母親に捨てられたドンスがブローカーとして人身売買をしているのはとても皮肉なものだと思う。


“生まれてくれてありがとう”
ってソヨンが皆に言い、ヘジンもソヨンに返してあげるホテルのシーンは本作で1番の名シーン。
薄暗くて皆の表情は分からないけれど、それぞれの自己肯定感が上がり温かい気持ちになるとてもほっこりする場面だと思う。母親に捨てられようと、家族から見放されようと、子どもを手放そうとも、親がいなかろうと、皆を肯定し各々の心を救ってくれる破壊力のある魔法の言葉なんだと思う。

血の繋がりのないクリーニング屋で働くブローカー・サンヒョンと児童養護施設で働くドンス、赤ちゃんの母親ソヨン、彼女の子ども・ウソン、児童養護施設にいるヘジンの5人が本当の家族の様な共同体として行動している様子はとても幸せそうだ。

始めは何のまとまりもないバラバラの点だったのに、旅を続けていくうちに点と点が線となり、1つの円のようになっていく。強い絆で結ばれ、次第に家族のように見えてくるのだから本当に不思議なものだ。

楽しそうに車を洗車するシーンの余韻が心に残る。

幸せの形も家族の形も色々あっていいのだと思う。一人一人は完璧じゃなくとも、群れとなり補い合って助けながら生きていけば人生上手くいくのだろう。

“産んでから子どもを捨てるより、産む前に子どもを殺す方が罪が軽いっていうの?”
と短い台詞ながら大きな矛盾をついてくる言葉がとても印象的で考えさせられた。

赤ちゃんポストの是非は議論がなされそうだが、少なからず亡くなってしまう子どもがいるのなら誰かに愛され救われる命があってもいいのではないかと思う。

繋がりのない者たちが繋がり、人と人の優しさや絆、家族愛のような温かさを感じられる作品だった。現実はそう甘くないと教えてくれる最後も良かった。是枝監督の擬似家族を描く物語は本当に素晴らしいと思う。
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