壊れた傘の下で。
子を捨てた母とブローカーが里親探しの旅に出る今作は、テーマは重いが全体的に緩かった。殺人より人身売買を追っかけ、でっかいGPSを置く刑事が緩いから緊迫感がなかった。そして追われる側の危機感や罪悪感がなんか薄かった。
子を捨てる親の責任とか、ベイビーボックスの必要性とかは、自分が同じ立場にならない限り何も言えないけど、何の罪もない捨て子を観ていると自分は幸せなんだと思った。ここで犬猫を引き合いに出すのは違うんだけど、犬や猫の子供を捨てたり、何匹かだけ貰ったりする人間を、犬猫目線で見たら残酷な世界だと思う。
水の描写が印象的で良かった。土砂降りの夜にひとりで教会に行く母親ソヨン。室内から雨だれを見る時はふたりで、洗車する水で濡れる時はみんなと。ソヨンに傘はなく、友達の傘を盗んでも心は濡れたまま。外に出る時「傘を持って行け」 とドンスが言っても、「雨が降ったら傘を持って迎えに来れば」 と答えるソヨン。彼女が欲しいのは自分で差す傘ではなく、誰かが差してくれる傘だったのだろう。
オンボロのバンは疑似家族を守る大きな傘のようだった。そのファミリーボックスは妙に居心地が良いが安全な箱ではなく、壊れたバックドアから誰かが落っこちる不安があった。孤独の雨で始まり、ぬくもりの海で終わるのが良かった。