けめこ

セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記のけめこのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ものすごく毛利さんらしい、人間讃歌&物語讃歌だった。

物語を奪う方法として、何かを描きたいと願っているけどその何かがつかみ切れていない原作者をかどわかし、参考になるものいろいろ見せてあげるよ!つって結果的に創作意欲を奪う、って、アスモデウスさん、シリーズ史上いちばん頭がいい&考えることが的確な悪役では???
ひとまとめにして効率良く潰す、ってだけじゃクオーツァーと同じじゃない?って思ってたけど、それ以上だったわ…。
物語の中で生み出されたけれど、その結末は自分で決めるんだ、っていう飛羽真は言ってたけど、そう、飛羽真には、生み出されてからどう振る舞うかを決めることはできても、自ら生まれることはできないんだから。まず石ノ森先生を狙う、これが正解ですね…(笑)電王絡みでもこれまでにやってなかったのか。これはアニバーサリーに相応しい。確かに時を越えるだけでは無理だな、次元を越えないとだから。

で、この「物語の結末は自分が決める」って飛羽真の決意、そのまま現実にも当てはまるような気がして。
現実の人間も、自ら望んで生まれたのではなく、親の意志によって「生まれさせられている」という点では、物語の登場人物となんら変わりないわけで。
そして、それぞれ自分の人生という物語を生きてて。例えば自分にとっては重要な出来事でも、他人にとってはどうでもいいことで、それこそ他人の事情なんて虚構と同じくらいどうでもいい、って考えると、他人も虚構も似たようなもんで。
そして途中で登場人物も増えていくかもしれないけれど、それは人口のごくごく一部でしかなくて、この世のほとんどの人とは交わることはないわけで。要はそれぞれの人生は、全く別々に独立した本のようなもので。
なんだろう、虚構の物語の登場人物と、一生出会わないで終わる他人って、「この世のどこかにいるかもしれないし、いないかもしれない」みたいに考えたらあまり差がなくないか?と思っていて、だったら実在の有無は関係なしに、登場人物も現実の他人も同じようなもの、と考えることができて。
こう考えていくと、実際、物語と現実って、大差ないわけですよ。よく言うじゃないですか、本は他者との対話、って。読まなかった本=出会わなかった他者、みたいに考えると、本は人間、物語は現実、なんですよ。
長々説明しましたが、つまり、生まれはコントロールできないけど、まさに作者の手を離れた登場人物のごとく、成長すれば親の手を離れて自分で物語の結末を決めていく…って考えると、物語にも現実にも同じことが言えるなあ、と。

こう思えるのはやっぱり毛利さんの脚本の雰囲気がなせる技。舞台だとパラノイアサーカス、MAPS、星の飛行士などに顕著だけど、物語と現実の境界線を引かないんだよね。なんだろう、大事なのは現実で物語は所詮つくりもの、みたいな考え方とは対局にあるというか。現実も物語も等しく大事なものとして扱ってくれる。
この、現実も物語も関係ない、そこに人が生きている限りどっちも等しく大事なんだ!っていうのが、好きだ。というか、そうだよね!ってなる、自分と解釈一致してるから好きなんだな。
だからこそ、自分たちが物語の登場人物だと知ってしまう、っていうのを変に重くしないんだよね。これを引っ張ろうと思えば引っ張れるんだけど、介人はあのキャラで全然問題ないし、飛羽真は後述のとおり、物語を生きている=自分で書ける、という利点の方にさっさとシフトさせていて、この匙加減がすごく好き。

あと一次も二次もない!ってのも好き。毛利さん自身、もともと二次創作的なアプローチの人だし。モマとかピカレスクセブンとかGOZENとか、それこそニチアサの脚本なんて、前話までを受けてそれをつなげていくって、二次創作の最たるものでしょうよ。
物語のパターンはシェイクスピアの時代に出尽くした、だっけ、なんかそういうふうに言うこともあるらしく、影響を受けたとかインスパイアされたとかの範囲まで含めたら、この世のすべての物語は何かの二次創作なんですよ。
というかそもそも、現実も物語も変わらないものだとするならですよ、全ての物語は、「現実という物語」を下敷きにした二次創作であってですね。
だから、そう、物語と現実に価値の差違がないのと同じだってこと。一次が偉くて二次は格下とかじゃなくて、何次だろうがすべからく物語は物語なのだ(現実も含めて)、というメッセージですよね。

個人的には、現実も含めて物語なのだ、っていう認識は、どちらかというと厭世的なニュアンスというか、人間だっていずれ滅びるんだし…みたいな、後ろ向きな意味で持っているんだけど、それが毛利さんにかかるとこうも讃歌として歌い上げられるか、と。

あとなんだっけ、ネタ切れとかも言われてたな(笑)でも同じモチーフを時代に合わせてリファインして繰り返しているからこそ、この夢のようなコラボが実現するわけでな!
ドライブ+ゴーオン、ウィザード+マジレン、剣斬+忍者系戦隊が特に好きだった…!ちょっと目が足りなすぎましたね…
あと戦隊同士だけどジュウオウ+ライブマンはかっこよすぎる。
そしてなんだかんだ言って、同じモチーフでも同じ物語は一つとしてないわけで。それぞれの登場人物が必死に生ききった結果、いろんな物語が生まれてるんですよ。

そしていちばん好きなのは「ヒーローを描こうとしても、どうしても悪のにおいがしてしまう」「正義でもあり悪でもある、それってつまり人間ってことでしょ」(うろ覚え)
もう、ほんとに、これに尽きる。
数年前からウルトラマンも見始めたんですが、ニチアサ系とウルトラマンのいちばんの違いはたぶんここ。大きさの違いは二の次だ。
なんていうか、ウルトラマン見てると「ヒーローかっこいい!がんばえー!ありがとう!」みたいな気分にはなれるけど、あくまでも彼らは宇宙人であり、他者、なんだよね。
でもニチアサは見てて、「私の物語だ…!」って思える。これまでは、戦隊に女子がいるから自己投影してそう思えるのかな?って考えてて、もちろんそれも大きいと思うけど、今日答えが見つかった。仮面ライダーやスーパー戦隊は、確かにヒーローという一般人ではない存在ではあるけれども、あくまで「人間」を描いているんだ。
現実と物語を曖昧にする今回の作風が成り立ったのも、ヒーローたちがみんな、現実を生きている私たちと同じように「人間」を生きているから、なのかもしれない。

そのあとの飛羽真もすごかったな、「物語に戻る」って。「現実逃避して妄想の世界に閉じこもる」みたいなのはよくあるけど、その逆ってなかなかないぞ。
この、辛い物語に戻っていく姿がまさにヒーローだった。そう、人間だから、幸せな現実があるなら、そこにいればいい、と揺れる気持ちもある。賢人は現に引き止めたし。ましてや、よくある「妄想の世界は楽しいけど現実を見なきゃ…」みたいなのとは逆で、絶対にいつか直面しなきゃいけないってわけでもなく、たぶんあれ逃げ切ろうと思えばそうできたんだろう。
でも飛羽真には、戻る先の物語を自分で書いて決める力があった。自分で書けるものだからこそ、勝算を持って戻ることができたんだな。
そして何より、自分と同じ等身大の「人間」が、正義だけではなくいろんなもので揺れ動きながらも、それでもなお自ら進んで困難に立ち向かう姿…!すんごいベタな言葉になっちゃうけど、まさにこれがヒーローなんだよな…。何も名言とか励ましの言葉とか言ってくれなくていい、ただその立ち向かう姿を見せてくれれば、見てるこっちも頑張ろうって思えるんだよ…!!
最初に飛羽真は、みんなを助けたいと思ってるのに登場人物を苦しませるなんて…みたいなこと言ってたけど、結局自分からそこに飛び込んでいく。物語の創造主たる神によって苦しまされるんじゃなくて、登場人物である自分の意志でその苦しみに立ち向かっていくんだ。それは、飛羽真自身にとっては、物語の世界をあのままにしておけない、という責任感みたいなものだろうけど、メタ的に言えば、その行為そのものが、周り回って、現実という別の物語を生きている私たちを助けてくれるんですよ…!あと個人的には、苦しんでる物語の方が、苦しみを肯定してくれてる感じで好きだし。
あとどうでもいいけど、セイバーの物語に入らなかったif世界では、賢人とルナと飛羽真、3人で暮らしてる…のか?あの状況、ルナはどっちとくっついてるんだろうか…いやどっちでもないってのが順当だとは思うが…(笑)

まとめると、敵さんの原作者狙い作戦がめちゃめちゃ的確だったからこそ、「現実も物語、物語も現実」「ヒーローも人間」「物語を生きるヒーロー=現実を生きる人間」「物語の結末は自分が決める」という、いろんな素晴らしいメッセージが引き出されてきた、って感じで、めちゃくちゃ良かったです!!!
もともと毛利さんの物語観みたいなものが好きなのもあって、自分の好みにもぴたっとはまった。


ただ。
リバイスが長い!!!
丸々1話分くらいやったよね???
こんなにやるなら、キラメイジャーエピソードゼロみたいに、ちゃんと二本立て扱いにした方が親切では????
自分が観に行ったときは、お子様たちはそれなりに引き込まれてたけど、大人たちが不意打ちくらってちょっとダレてた(笑)いや気持ちはわかる。それこそ毛利さんの舞台観た後みたいに、はーーー物語最高!人間っていいな!ヒーローっていいなーー!よし自分も頑張ろう!みたいな余韻に浸りながら帰りたかったんだよ…。
リバイス自体は悪くない感じがした、主演も周りのキャラも顔がセイバーより好みだし、昴さんに引っ張られてかアフレコも初期にしてはかなり上手くてテンポはよかった。悪から生まれたヒーロー、っていう本編の話も体現してたし。
が!!!長い!!!
そしてリバイとバイスの掛け合いが大半だけど、あれだけをほぼノンストップで浴びるのはさすがにきついものがある!!!
カメ止めコンビが出てきたときが癒やしでしたね…

なのでもう1回は観に行かないかな…。単品でください…。
けめこ

けめこ