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映画検閲の消費者のレビュー・感想・評価

映画検閲(2021年製作の映画)
4.6
・ジャンル
サイコロジカルホラー/スリラー

・あらすじ
舞台は80年代のイギリス
低予算の過激なビデオ映画が流行する一方でサッチャー政権はそれを犯罪率上昇の元凶と見做し厳格な規制を強いていた
完璧主義の検閲官イーニッドはその考えに強く賛同し日々仕事をこなしている
根底にあるのは幼少期、自分と一緒にいる中で妹ニーナが失踪した事件への想いであった
朧げな当時の記憶、諦めた両親…
それでも希望を捨てきれないイーニッド
そんな折、過去に検閲を担当し公開を許した作品の模倣と思われる殺人事件が発生
彼女はマスコミや一般人から非難の的とされてしまう
そうして追い詰められていた時、彼女はフレデリック・ノースという監督の作品の検閲を担当
奇妙な事に内容はニーナ失踪時のトラウマを呼び起こさせる物だった
やがてイーニッドは監督について調べる事に固執していき、見つけ出した作品の主演女優の顔を見て衝撃を受ける事となる
ニーナと瓜二つだった為である
他人の空似か、あるいは本人か
何の確証も無かったが徐々にイーニッドは妄執的になっていき…

・感想
失踪した妹への罪悪感に囚われた検閲官の女性が虚実の区別が付かなくなり妄執に飲み込まれていくサイコロジカルホラー作品
題材が興味深かったので鑑賞

表現規制への風刺という強固な軸を最後まで保ちながら映像、劇伴、演出、世界観、芝居などあらゆる面で芸術的でホラー愛溢れる感性が見られる素晴らしい作品だった

規制を推し進める者こそが最も虚実の区別が付いていないのではないか?
規制論の背後にあるのは個人的な恐怖や罪悪感では?
それらの指摘を自然な展開で示しながら、VHSやカメラ画面などのギミックを駆使した不気味な映像演出を基礎にしつつジャッロ的な色彩美も盛り込んだ絶妙なバランス感覚
加えてストーリーからは「マルホランド・ドライブ」及び「ロスト・ハイウェイ」の様な虚実の入り組ませ方や「セイント・モード」の様な狂気の醸成も感じられる

考察という程でもないが恐らくイーニッドは若気の至りか事故かでニーナを死に至らしめており、その罪を受け止めきれず記憶が朧げとなり実在したかも怪しい男へと全てをなすり付けている
その男はフレデリック・ノースの作品に登場する殺人鬼ビーストマンと脳内で重なり合い妄想をより狂気的な方向へと駆り立てた
そうした感情の源泉が両親(主に母)からのかつての非難へのトラウマにあるのも秀逸
また「血塗られた教会」とトラウマの一致は映画を模倣したとされた家族殺しと同様に似た物があると繋げて考えようとする表現規制派の思考回路を共に示唆している(後に犯人は映画を見てすらいなかったと判明している事からも分かりやすい)

日本でもかつて宮崎勤の事件があった際に「ギニーピッグ」シリーズが規制されたりという事があった
どこの地でも時代でも他人事ではない問題提起をホラー愛あってこそのセンスで美しくまとめ上げた世界観は久々に強く惹かれる物があった
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