映画の中で重要な役割を果たすのが「梅の木」です。珠子はこの梅の木を大切にしており、毎年剪定を行うことを習慣としています。しかし、梅の木を切らないで放置しておくことが、物語の中で和子自身の感情や人生の選択と重なっていきます。梅の木が自由に伸びていく姿は、珠子と息子忠男の変わらない生活を象徴しており、その一方で、剪定をしないことがもたらす問題もまた示唆されていました。
この映画のもう一つのテーマは、「老い」と「介護」だと思います。珠子は高齢になり、息子を支えることが次第に難しくなってきています。彼女自身の健康も不安定になり、いつまでこの生活を続けられるのかという不安が募ります。映画は、現代の日本社会が抱える高齢化や介護問題についても、静かに問いかけていると思います。特に、自閉症の息子を抱える親として、珠子が感じる将来への不安や、息子が自立できるかどうかという問題は、多くの親が共感する部分ではないでしょうか。
しかし、この映画は決して悲観的では無いと思います。珠子は息子との生活を愛しており、その中に喜びや幸せを見出しています。彼女は、息子を支えることが自分の人生の使命であり、それが自分にとっての生きがいだと感じています。和子の強さと愛情に胸を打たれると同時に、彼女が抱える現実的な問題に直面せざるを得ませんでした。
この映画は、現代社会における親子の関係、特に障害を持つ子どもを育てる親の苦悩や喜びを描いた作品であり、地域社会との関わりや孤立、そして高齢化社会における介護問題といった現代の日本が直面する課題にも触れています。映画は全体的に静かなトーンで進行しますが、その中に深い感情とテーマが込められており強い印象が残りました。