不安に反して、一本の映画としてしっかり楽しめる映画になっていた。マーベルと思わず観た方が良い。
そもそもクレイヴンというキャラで単独作品を、という時点でクエスチョンマーク……というか、ほとんどの日本人は「誰?」だろう。わたしだってアシェットのマーベル・グラフィック・コレクションを購読している(こんなのまだ律儀に購読してる奴ってわたし以外に何人いるのだろうか)から「クレイヴンズ・ラスト・ハント」は読んだが、それでもピンとこない。
はっきり言ってマーベルコミックのヴィランのほとんどは大昔の「子供向け漫画」のノリで行き当たりばったりで生まれてきたキャラばかりで、2020年代に大人をも鑑賞しうる実写映画になり得るものではないので、クレイヴンにしてもその範疇のキャラだ。
それでも予告を観ると、これは往年の痛快アクション映画として意外と楽しめるのではないか、と少し期待感を持って観に行ったが、その期待は間違いではなかった。
アクション大作としてのランボーの楽しさに、男女バディものとしてのコマンドーの要素を少しまぶしたような感じで、ヒーローが悪人をバッサバッサとぶちのめしていく痛快な作品として、アーロン・テイラー=ジョンソンの肉体同様、非常によく仕上がっている。彼の風貌、表情はクレイヴンとしての説得力も申し分なく、華も存在感もあるので、彼がスクリーンに映っているだけで嬉しくなる。特撮でピョンピョン飛び交う様は、ワイヤーが見えるようで少々冷めてしまうところもあったが、そこは単なる重箱の隅だ。
ヴィランのライノも、不気味なサイコパス感が良い。フォーリナーも「こんなやつにどうやったら勝てるの?」とワクワクさせてくれる(それだけに残念な最後だったが)。
なんかよくわからん薬品でスーパーパワーを得てヒーロー爆誕、というアメコミの常套句の第一幕、気弱な弟が誘拐されて窮地に立たされる第二幕、ヴィランとの頂上決戦で一幕の伏線も回収される第三幕と、オーソドックスだからこそ安心して楽しめる(死んでほしくない人は誰も死なないし、もちろん犬も無事だ)。
意外に大事なのは、ポストクレジットがなかったところかもしれない。本作上映直前に「SSU終了」のニュースが流れ、「梯子を外された可哀想なクレイヴン」と、変な意味で話題になったが、本作がそのつもりで作っていたことがわかる。だからこそ本作は、非マーベル作品としことができる。むしろアメコミ映画と思わず観た方が楽しめる気がする。ラストでコミック版クレイヴンに「なる」わけだが、そんなコミックファンへの目配せなどせず、新たなダークヒーローとして我が道を歩んでくれれば、「クレイヴンズ・ラスト・ハント」へと向かおうとせずとも、独自の世界が築いていけたのではないかと思うと、残念だ。
というわけで本作に対するわたしの評価は
概ね高いのだが、玉に瑕というか、気になってしまう点があるとしたら、アリアナ・デボーズの存在。ウエスト・サイド・ストーリーで助演女優賞を獲得したその実力が、全く活かされなていない。彼女の問題ではなく、テンプレ的なキャラ設定の問題だろう。本作といいアーガイルといい、映画界で最高評価を得た女優が、なぜこんな「誰でもできる役」ばかりやっているのだろうか。実は本作、クレイヴンに集中しているとご機嫌に観られるのだが、彼女を追っているとあちこちにポンコツが垣間見えるという弱点があることを最後に記しておきたい。