何ら特別でないどこにでもある普通の人の人生観の移ろいを映して確かな手触りがある特別な映画。観客の誰もが自分の恥に満ちたそれを思い出さずにはいられない普遍性がある。結婚、出産、仕事…。人生を決定づけてしまう事柄を避けたいらしい主人公が、そんな事ごとに道筋がつきそうになる度にそれを壊して次へと心移りしていく。身勝手に男から別の男へと乗り換えしばしの幸福な時間を得てもやっぱりいつかは濁っていく必然。未来への迷いと過去への悔いがそうさせるのだろう。人生の喜びと悲しみは必ず変わりばんこに顔を出す。相手を傷つけても己の幸福を追い、気付けばその先でも同じことをやっている。それでもその繰り返しの中で彼女の人生観は少しずつでも深まっていくのだ。その時々の人生の後悔を抱えたまま、新たにそれを付け加えながら、いつか一人間として彼女は立つ。増え続ける悲しみと後悔にどう折り合いをつけるのか。それが人生最大の課題であり、醍醐味なのだと思う。
素晴らしい人生ドラマだった。ヨアキム・トリアーは「テルマ」以来2作目。あんまり良くて続けてもう一度観てしまった。