第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞ですね。
この映画のテーマは「他者との関係における自己の存在の曖昧さ」といった、哲学的な問いを投げかけているようです。
夫の大祐は、自らの過去を捨て去ることで新しい人生を手に入れます。その選択が社会的な規範や他者との関係性にどのような影響を与えるのかが描かれていました。この映画は、現代社会において、人々が自己を見失いがちな状況や、他者との関係の中で自分をどう定義すべきかという課題を提起しています。
登場人物たちは各々が自分の人生における重要な選択を迫られます。妻の里枝は、亡くなった夫が本当は誰であったのかという重大な問いに対し、彼が愛した男であったことに意味を見出すことを選びます。これは、真実が必ずしも幸福をもたらすわけではないという、現実的で複雑なメッセージを伝えていまた気がします。彼女の選択に共感しつつも、その過程において彼女が失ったものや、逆に手に入れたものについても考えさせられました。
また、城戸弁護士のキャラクターを通じて描かれる、他者の人生や過去に対する興味や関与が、自分自身の人生にどのように作用するかという問題です。城戸は弁護士としての職務を全うしつつも、大祐のケースにのめり込み、最終的には自らの存在意義に対する問いかけに直面します。彼が大祐の過去を追い続ける中で、彼自身の人生がどのように定義されているのか、どこまでが他者によって作り上げられたものなのかを深く考える場面は、観客に「自分の人生は誰のものであるのか」という根本的な問いを突きつけています。
大祐が他人の人生を生きようとしたように、人は時に他者の期待や社会の規範に合わせて自分を作り変えようとすることがあります。しかし、その結果として、本当に自分が何者であるのかを見失ってしまうこともあるでしょう。この映画はそのような現代の人間が抱えるアイデンティティの問題を鋭くえぐり出し「本当の自分とは何か」を問いかけていると思います。