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オッペンハイマーのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.3
原子爆弾を開発したロバート・オッペンハイマーの半生をクリストファー・ノーラン監督(兼脚本・共同製作)が映画化した伝記ドラマ。
原作はカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによる『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』
原題: Oppenheimer
(2023、181分、R15+)

第2次世界大戦下の1942年。
アメリカはドイツより先に原子爆弾を開発・製造しようと極極プロジェクト「マンハッタン計画」を立ち上げ、オッペンハイマーを開発チームのリーダーに抜擢する。
翌年、オッペンハイマーはニューメキシコ州にロスアラモス国立研究所を設立し所長に就任。全米各地(ヨーロッパからの亡命者を含む)から優秀な物理学者を家族と共に移住させて本格的に原爆開発に着手する。
1945年ドイツ降伏後、ロスアラモスでの実験に成功し、戦争を早期に終わらせアメリカ兵の犠牲を減らすという大義により、原爆は日本の広島と長崎に投下される。
1954年、赤狩りの嵐が吹き荒れる中、オッペンハイマーはソ連のスパイ疑惑を受け秘密聴聞会で追及を受ける(オッペンハイマー事件)。
1959年、事件の首謀者ストローズの公聴会が開かれる…。

~登場人物~
①主要人物
・物理学者、J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー):主人公。
・その妻、キャサリン・"キティ"(エミリー・ブラント):生物学者兼植物学者。
・カリフォルニア大学バークレー校での教授時代に出会った恋人、ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー):精神科医。共産主義者。
・アメリカ陸軍の将校、レズリー・グローヴス大佐(マット・デイモン):マンハッタン計画の責任者。
・原子力委員会の委員長、ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.):オッペンハイマーをプリンストン高等研究所の所長に抜擢。水爆開発を巡って対立。

②ロスアラモスの住人(マンハッタン計画の参加者とその妻)
・物理学者、イジドール・ラビ(デヴィッド・クラムホルツ):留学時代に友人となる。
・物理学者、アーネスト・ローレンス(ジョシュ・ハートネット):バークレー校での同僚。
・物理学者、ジョヴァンニ・ロッシ・ロマニッツ( ジョシュ・ザッカーマン):バークレー校での最初の受講生。共産主義者の疑いで解雇。
・物理学者。弟、フランク・オッペンハイマー( ディラン・アーノルド):過去共産党に入党。
・弟の妻、ジャッキー(エマ・デュモン):過去共産党に入党。
・物理学者、エドワード・テラー(ベニー・サフディ):水爆開発推進派。
・バークレー校の物理学者、ロバート・サーバー(マイケル・アンガラノ)、
・物理学者、ハンス・ベーテ(グスタフ・スカルスガルド)
・物理学者、セス・ネッダーマイヤー(デヴォン・ボスティック)
・物理学者、リチャード・P・ファインマン(ジャック・クエイド)
・物理学者、エドワード・コンドン(オーリー・ハースキヴィ)
・物理学者、リチャード・トルマン(ム・ジェンキンス)
・その妻、ルース(ルイーズ・ロンバード):心理学者。
・物理学者、クラウス・フックス(クリストファー・デナム):ソ連のスパイ。

③その他
・物理学者、アルベルト・アインシュタイン(トム・コンティ)
・物理学者、ニールス・ボーア(ケネス・ブラナー)
・ケンブリッジ時代の物理学教師、パトリック・ブラケット(ジェームズ・ダーシー)
・ドイツの物理学者、ヴェルナー・ハイゼンベルク(マティアス・シュヴァイクホファー)
・科学研究開発局長、ヴァネヴァー・ブッシュ(マシュー・モディーン)
・陸軍の情報将校、ボリス・パッシュ(ケイシー・アフレック)、
・ハリー・S・トルーマン大統領(ゲイリー・オールドマン)

原爆開発者として称えられ英雄となったオッペンハイマーが、その後国家安全保障の立場から共産主義に対する脅威とされ国家権力により排斥されていく様子を描くことがテーマになっている(アメリカがオッペンハイマーに行ったことは日本政府が日本学術会議の人選に介入したのと同じ構造だ)。
よって、日本では原爆による被害を描かず残念だという声が上がったが、監督にはアメリカが日本に原爆投下したことについて間違いだったという視点はなく、本作はそもそも核抑止論反対や反戦や反原発を訴えるものでもない。
ところで、登場人物をみるとオッペンハイマーの外にも錚々たる物理学者がたくさん関わっている。
科学者は悪意を持って発明する訳ではないが、製造後は科学者の意図を離れ政治利用される。その結果、悲劇が起こる。やはり倫理的観点から一定の責任を持たなければならないと思う。国家の力は強大だが。

また、三つの時代を時系列かつ交互に描く手法は監督の特徴だが、集中力が中断され見ていて疲れる。しかも長い。「メメント」のような作品ではないので、少なくともこの作品には適さない。
量子物理学(量子論)は難しいが、ミステリアスな謎に溢れ面白いので、また関連の本を読みたくなった。
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