市原は、2019年11月、東京にて「仮想通貨奉納祭」という祭りを企画・実施しました。これまでにも地域の伝統の成り立ちにインスピレーションを得てきた市原がこのプロジェクトで試みるのは「神事のアップデート」であり、また、「祝祭をゼロから設計し、現代都市に土着し継承させることは可能か?」を問う社会実験でもあります。この祝祭の中核をなす《サーバー神輿》は、世界中から集めた仮想通貨の着金に対して、リアルタイムに神輿が反応するというインタラクションが実装されています。
2019年12月4日
情報化とグローバル化により変質する社会のなかで、私たちは、どのような「未来」のイメージを描くことができるでしょうか―。
2019年12月から2020年3月までシンガポールと東京を巡回する本展は、アジアにおけるメディア・アートをはじめとした様々な表現を通じ、近代化と科学技術発展の延長線上に想像されてきた、ある種画一的ともいえる「未来」のイメージを、複数の可能性に満ちたものとして捉え直そうとする試みです。アーティストたちは、いまや共通のツールやプラットフォームとなったテクノロジーを用い、神話や儀式、人間と機械の関係性を改めて探求しています。近代化の過程に伴うテクノロジーの受容経緯や、形態が異なるアジアの中で繰り広げられるアーティストの実践には、近代的テクノロジーに対する工夫に満ちた豊かな感覚と創造力を見ることができるでしょう。
開催期間 | 2019年12月6日(金)〜12月21日(土) |
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会場 | ジャパン・クリエイティブ・センター※4 |
開館時間 | 午前10時〜午後6時 |
休館日 | 日曜日、月曜日 |
入場料 | 無料 |
主催 | 国際交流基金アジアセンター、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] (東日本電信電話株式会社)、在シンガポール日本大使館ジャパン・クリエイティブ・センター |
市原えつこ [日本]
INTER-MISSION [シンガポール]
タナチャイ・バンダーサック [タイ]
葉山嶺 [日本]
やんツー [日本]
Waft Lab [インドネシア]
会期中、本展キュレーターと出展アーティストによるガイドツアーとトーク・イベントを開催するほか、シンガポール内の2つの会場で、アウトリーチプログラムを開催します。Science Centre Singaporeではメディア・アート作品の制作体験を行うワークショップを、The Substationでは、楽器製作ワークショップをそれぞれ実施します。本展と併せてご参加いただくことで、「アート&テクノロジー」が有する表現の特性と創造性を、体験的に学ぶことができます。
開催期間 | 2020年1月11日(土)〜3月1日(日) |
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会場 | NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] |
開館時間 | 午前11時〜午後6時(最終入館は閉館の30分前まで) |
休館日 | 月曜日(月曜日が祝日もしくは振替休日の場合、翌日を休館日とします。)、保守点検日(2/9)※5 |
入場料 | 一般・大学生:500円(400円)/高校生以下無料※6 |
主催 | NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] (東日本電信電話株式会社)、国際交流基金アジアセンター |
市原えつこ+渡井大己 [日本]
INTER-MISSION [シンガポール]
ザイ・タン [シンガポール]
葉山嶺 [日本]
タナチャイ・バンダーサック [タイ]
やんツー [日本]
リンタン・ラディティヤ [インドネシア]
Waft Lab [インドネシア]
ヘリ・ドノ [インドネシア]
市原は、2019年11月、東京にて「仮想通貨奉納祭」という祭りを企画・実施しました。これまでにも地域の伝統の成り立ちにインスピレーションを得てきた市原がこのプロジェクトで試みるのは「神事のアップデート」であり、また、「祝祭をゼロから設計し、現代都市に土着し継承させることは可能か?」を問う社会実験でもあります。この祝祭の中核をなす《サーバー神輿》は、世界中から集めた仮想通貨の着金に対して、リアルタイムに神輿が反応するというインタラクションが実装されています。
ノル・アズマンとのコラボレーションによる《パノラマ・ラプス》は、シンガポール国立博物館やシンガポール国立美術館、シンガポール美術館をデジタル消去し、始めから存在しなかったかのように見せています。本作品は、これらの主要文化施設付近のさまざまな地点から撮影された風景を映す、ヴィデオ・プロジェクションの三連作といえます。三施設が消え去ったあとには、別の創造的な可能性を予感させる空間の広がりが残されています。これらの建築が存在しないこのパラレル・リアリティ(並行現実)において、芸術を鑑賞することや、シンガポールという国家における芸術の生態系はどうなっているでしょうか。
ザイ・タン《エスケープ・ヴェロシティ Ⅰ》2018年、《エスケープ・ヴェロシティ Ⅱ》2018年
《エスケープ・ヴェロシティ》は、シンガポール内の三箇所にて2013年から2016年にかけてフィールド・レコーディングされた音源を素材にした作品シリーズです。録音場所はどれも、豊かな生物多様性を保ちながらも、都市開発の対象となる危機にさらされています。生物種間のコミュニケーションに対する関心と、資本主義のスピードへの疑義をもつタンは、録音された鳥や野生動物の発する声を人間の聴覚に合わせて操作したうえで、楽曲として構成しました。《エスケープ・ヴェロシティ Ⅰ》は、楽曲が刻まれたレコード盤と、タン自作の図形楽譜とで構成されたインスタレーションで、レコードは鑑賞者が自由に再生することができます。映像作品《エスケープ・ヴェロシティ Ⅱ》では、《Ⅰ》の図形楽譜を映像の視覚的要素として利用しています。
前年に香港で制作、発表された作品《裁縫鳥の真珠》を、本展会場の建物やその周囲の生態系に合わせて再構築したインスタレーションです。《裁縫鳥の真珠》は、映像と、香港で出会ったさまざまな野鳥の鳴き声をまねる葉山の声で構成されています。葉山による鳴き声の一部はJCCの建物の外で再生され、テクノロジーを用いた人間以外の存在と、人間の演劇的な会話が試みられます。映像は、葉山が香港をさまよいながら撮影した素材で構成された、映画的叙情詩となっています。《裁縫鳥の真珠》は音とイメージが織りなすリズムを探求しながら、人間と非人間の言語を翻訳する新たな方法を思い描くという美的経験をもたらします。
タナチャイ・バンダーサック《セントラル・リージョン》2019年
本作品において、タナチャイ・バンダーサックは、ディゾルブとスーパーインポーズを用いた映像にアンビエント・サウンドを組み合わせ、ラオスの都市サムヌア近郊にあるヒンタンの立石を表現しようとしています。立石をとりまく空間に、運動と振動が現われては消えていきます。このプロセスは、いまは活気のない遺跡の一帯に散在する立石に備わる霊的機能――生と死の間にいるアンデッドや人間以外の存在が支配する領域との間に境界線を引く力――を想起させます。本作品において映像は、立石をとりまく生態系に存在する不可視だけでなく、未知のものとのコミュニケーションをとる新たな可能性を開くために、不可欠なテクノロジーとなっています。
やんツー《造山運動》2019年
キャンバスに埋め込まれたディスプレイに、山脈の断面図のような図像が表示されています。これは、リアルタイムに取得された仮想通貨の直近の価格推移を元に描かれたチャート図です。描画を行う作品内蔵のRaspberry Piは、並行して仮想通貨のマイニング・プログラムも実行しているため、電源が供給される限り、この作品は僅かずつながら自らの価値を高めていきます。「造山運動」は、陸上の大山脈や弧状列島の地質構造を作る地殻変動を指す言葉です。やんツーは仮想通貨の価格推移をこの地殻変動になぞらえながら、美術作品の価値とはなにか、また仮想通貨が社会に与える影響などについて、一種アイロニカルな応答を試みています。
Waft Labは、ジャワ島東部にあるアンダーグラウンドな違法バイク文化の再構築に継続して取り組んでいます。本作品にある「trabas(トラバス)」とは、バイクで作物の新たな流通ルートを探しながら、危険なドライブのスリルを楽しむ、ジャワ島東部の高原に暮らす農業従事者たちのオフロードバイク文化のことです。本作品では、トラバスにおけるこうしたディストピア的な機械のイメージを概念化し、さらに、ダンスでトランス状態になるジャワの儀式「jaranan(ジャラナン)」の美学を融合させています。本作品に出てくる野生のイノシシは、ジャラナンに登場するキャラクター「Celeng(チェレン)」を表しています。チェレンを演じる者は何にも縛られない野生動物のように踊り、その間は完全なトランス状態にあります。Waft Labはこのインスタレーションで、「ハイ・テック、ロウ・ライフ」と一部で称されるインドネシアのアンダーグラウンドな文化の未来を描くとともに、トラバスという文化が「チェレン」の未来像となりうるのではないかと提起しています。
ヘリ・ドノ《ガムラン・オブ・飲むニケーション》1997年 ICCコレクション
東京展特別展示として、インドネシア出身であり、同地を代表するアーティストの一人であるヘリ・ドノによるICCコレクション作品《ガムラン・オブ・飲むニケーション》を修復し、再展示します。ガムランやワヤン・クリッなど、インドネシアの伝統芸術を要素に用いた本作品では、各要素が素朴な機械的仕組みで接続され、自動で音を奏でたり、人形が踊ったりします。ガムランの演奏はもともと青銅楽器のみで行われていましたが、木製・竹製楽器や照明装置なども柔軟に取り入れながら発展してきました。ヘリ・ドノは、ガムランやワヤン・クリッなどはすべて「多様性の中の統一性(ビネカ・ツンガル・イカ)」というジャワの哲学から直接生まれたものであり、それらの緩やかな相互関連性は、西洋的な、価値の絶対化へと向かう中心主義的思想とは対照的であると書いています。そして、ガムランやタイトルに示唆されている飲酒文化もまた、コミュニケーション手段としての言語の一形態であるという認識から、この作品を「コミュニケーションへの入口」であるとしています。
ICCシアターにて本展の上映プログラムを開催します。
所在地 | 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 (京王新線 初台駅東口から徒歩2分) |
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