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車の中とは思えない! 高橋みなみが驚く「医療を届けるクルマ」

車の中とは思えない! 高橋みなみが驚く「医療を届けるクルマ」 車の中とは思えない! 高橋みなみが驚く「医療を届けるクルマ」

少子高齢化が急速に進み、公共交通機関が十分に整っていない地域では、医療機関にアクセスすることが困難な高齢者が多く存在します。こうした地方の課題解決に取り組むのが、ソフトバンクのグループ会社の「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ。以下「MONET」)」。通院困難な高齢者に向けて車で医療サービスを届けるMONETの取り組みとは、一体どのようなものなのか? チームを引っ張っていくためのリーダー論や、「こんなサービスもできるといいのでは?」というアイデアも交えながら、高橋みなみさんとプロジェクト担当者が語り合いました。

PROFILE

  • 高橋 みなみ
    MINAMI TAKAHASHI

    タレント

    2005年にAKB48第1期メンバーとして活動開始。2012年、AKB48グループ初代総監督に就任。AKB48を卒業後はテレビやラジオを中心に幅広くマルチに活躍中。

MONET Technologies株式会社
兼ソフトバンク株式会社 公共事業推進本部 MaaS事業企画部

松井 拓己(まつい・たくみ)

MONET Technologies株式会社設立に携わったのち、医療をはじめとしたサービス×モビリティの企画に従事。

“移動困難者” に寄り添うMONETの可能性とは?

高橋

松井さんはMONETの初期メンバーだとお聞きしました。そもそもMONETってどんな会社なんですか?

松井

MONETは移動に関わる社会課題の解決を目指して、ソフトバンクとトヨタ自動車が共同出資してつくった会社で、2019年から本格的に事業を開始しました。予約・配車システムを提供するオンデマンドサービスや交通・人流のデータ分析、自動運転事業といった多様なモビリティサービスを展開しています。

以前は、ソフトバンクで携帯電話基地局のネットワーク設計や電波改善を担当していたのですが、MONET設立の際に自ら手をあげて立ち上げメンバーに加わりました。

高橋

私もAKB48では初期メンバーの1人だったので、親近感があります(笑)松井さんはMONETでどんな仕事をしているんですか?

松井

私が担当しているのは「MaaS(マース)」と呼ばれる領域です。ちなみに高橋さんはMaaSって聞いたことありますか?

高橋

チラっと伺ったことはあります。車で何かをやるサービスなのかな、くらいですが。

松井

MaaSは “Mobility as a Service” の略語で、日本語では「サービスとしての移動」とか「移動のサービス化」と訳されます。デジタル技術を使って交通を含むさまざまなサービスを効率化する仕組み、みたいなイメージで大丈夫です。

MONETでは例えば、医療機器を搭載した車の中で医療サービスを受けられるようにする「医療MaaS」や、住民票の発行やマイナンバーカードの申請手続きといった行政手続きを車内でできる「行政MaaS」などの取り組みを行っています。使用する車両もミストサウナやミストシャワーなどを完備した入浴MaaS車両や、車内でのサービス提供時に有用な乗降ステップや大容量サブバッテリー、エンジン停止時でも利用可能なヒーターとクーラーを搭載したユニバーサルサービス車両など、用途に合わせてさまざまなタイプのものを用意しています。こうした取り組みを通じて、地域が抱える課題を解決するのがMONETの目指していることのひとつです。

福島県いわき市の「庁舎と住民をつなぐお出かけ市役所」の様子

高橋

地域が抱える課題って、例えばどんなことですか?

松井

東京都が発表している令和6年の「敬老の日にちなんだ東京都の高齢者人口(推計)」によると、高齢化率(65歳以上人口の割合)は23.5%でした。一方、MONETが事業を展開しているような地域では高齢化率が40%を超えるところも多く、中には50%を超えている地域もあります。高齢になると自分で運転をすることが難しくなってきますし、過疎化が進む地域ではバスやタクシーといった公共交通機関の担い手も少なくなっているため、多くの移動困難者が生まれている状況があります。

高橋

なるほど。私は東京生まれなので、移動に関してそこまで不自由を感じたことはなかったんですけど…確かに車の運転ができないと生活が成り立たない地域って、たくさんありますよね。

松井

そうなんです。MONETとしては、今後さらに増加していくことが予想される移動困難者の力になりたいと考えています。

患者さんの生活をリアルに把握、より精度の高い治療を実現

高橋

MaaSを通じて、松井さんが具体的にどんなことに取り組んでいるのか、もっと詳しく知りたいです。

松井

私が今、特に力を入れているのが医療MaaSの取り組みです。例えば長野県伊那市では、看護師が車に同乗して通院困難な患者宅を訪問し、車内で医師によるオンライン診療を受けられるサービスを提供しています。車両内にモニターやベッド、通信機器などさまざまな設備が搭載されていて、車いす用のリフトや足腰が悪い方向けの乗降ステップも備えています。医療従事者が診察しやすいように、机やいす、棚の位置などレイアウト変更も可能な車両も用意しています。

車内の診療の様子

高橋

車の中とは思えないくらい、設備が充実していますね!

松井

看護師が同乗しているのも大きなポイントです。診察する医師からは「現場にいる看護師を通じて、患者さんの状態を的確に把握できるから安心」という声が上がっています。また、看護師がいることがオンライン診察に不慣れな高齢の利用者が安心して受診できることにつながっているようです。これまでの訪問診療と比べて、医師は病院にいながら通常の外来を対応し、隙間時間にオンライン診療を実施することができるため、移動時間が効率化され、より多くの患者さんを診察できるようにもなりました。

伊那市では現在、妊産婦健診の取り組みも始めていて、主におなかが大きくなってきて運転に不安がある妊婦さんや、感染症の影響で健診への同席が難しかったパートナーさんから「オンラインでつながっている助産師へお産に関する質問ができたり、注意点を聞くことができた」「第3子で利用したが、第1子、第2子を含む家族に見せてあげられた」と反響の声もいただいています。

長野県伊那市の妊産婦健診の様子(伊那市提供)

高橋

医療とモビリティの相性の良さというか、2つを掛け合わせることでいろんなことができるんですね。他の地域ではどんなことをされているんですか?

松井

長崎県の五島市でも、車内でオンライン診療を提供する取り組みを開始しました。五島市はたくさんの島から成る地域で、島に専門医がいる医療機関が少なく、住民の中には船で別の島の医療機関に通院している方もいます。

高橋

船で通院…。都心にいると、なかなか想像ができない環境ですよね。

松井

ええ。そこで五島市では中心となる福江島をはじめ、その他の離島にもフェリーで車を運び、車内でオンライン診療を提供しています。ソフトバンクが提供する衛星通信サービス「Starlink Business」を活用し、通信状況があまり良くない場所でもスムーズにオンライン診療を行える環境も整えています。

五島市では、管理栄養士によるオンラインでの食事指導も行っています。印象的だったのが、車で患者さんの家に足を運んだ看護師の方が「患者さんが普段どれだけしょっぱいおみそ汁を飲んでいるのかわかって、それを管理栄養士に伝えることができた」とコメントしていたことです。

高橋

なるほど! 普通に病院で診察するより、患者さんのリアルな生活がわかるから、より細やかな治療やケアができるかもしれないと。

松井

そうなんです。患者さんの生活実態をより間近で把握したり、医師や看護師以外にもさまざまな専門家が診察に関わっていくことで、より効果の高い治療を提供できる可能性もあるな、と感じています。

サービス拡大は姉妹グループが増えるのと同じ?

高橋

地域の人たちと協力して、理解を得ながらひとつのサービスを一緒に作り上げていく上で、松井さんが心がけていることはありますか?

松井

地域の人からすると「よそ者が来て何か変なことをやろうとしているぞ」と感じる人もいるかもしれませんし、私たちがいることで、逆に地域の医療従事者の仕事を増やすようなことになっては本末転倒です。だからこそ、やるからには必ず、その地域に住む方々にとって本当に役に立つサービスにしようという想いで取り組んでいました。町内会などにも参加させてもらって、住民の皆さんからお話を聞かせてもらったりもしましたね。

高橋

実際にサービスを利用した方々からの反響はどうですか?

松井

「このサービスのおかげで、高齢の夫を施設に入れることなく、最後まで自宅で一緒に過ごすことができました」というご家族からの言葉が特に印象に残っています。地域の方々のお役に立てているという確かな実感が、仕事に臨む上での大きな励みにもなっています。

車内でオンライン診療を行う様子

松井

ちなみにMONETの医療MaaSは2024年11月現在、全国17の自治体に導入されています。今後もどんどん広げていけたらと思っているんですが、広がれば広がるほど、コントロールも難しくなってくるんじゃないかなと懸念もあります。高橋さんもAKB48の初代総監督を務められていたときに、似たような経験があるんじゃないかなと。

高橋

アイドルでいうなら、姉妹グループがどんどん増えていくような状況ですよね。グループを統括する立場としても、最初から携わっている初期メンバーとしても、各チームの動向やパフォーマンスのクオリティーは全部把握しておきたいじゃないですか。だけど、グループが拡大していくにつれて、どこかで絶対、物理的に不可能になるタイミングがくる。誰かに任せないといけないタイミングが必ずくるわけです。その「任せる」という作業が難しいですよね。

松井

めちゃくちゃわかります…。高橋さんはどうやって人に任せられるようになったんですか?

高橋

自分1人で全てやろうとすることを、諦めたんです。悔しい思いもありましたけど、自分のキャパには限界があるし、自分1人で抱えこむことで逆に全体のクオリティーが下がってしまうことにも気づいて。そこからは各チームのリーダーやキャプテンに任せられることは、できるだけ任せるようにしました。情報共有の場を設けたり、課題に対する解決策をおのおので考えてもらったり、地道に連携を取りながら。

松井

MONETには私よりも優秀なメンバーがたくさんいるので、私としてもどんどん任せていきたい。一方でサービスへの愛着や思い入れもあるし、一つ一つのプロジェクトにできるだけ関わっておきたい部分もある。難しいですよね…。

高橋

私も最後までその葛藤と戦っていました。でも、任された人たちが自信と責任感を持ちながら大きく成長していく姿を見て、踏ん切りがつきましたね。松井さんもきっと大丈夫ですよ。

車で動物医療も届けてほしい!

高橋

東京に住んでいても、病院に行くことって結構ハードルが高いじゃないですか。混んでいるんだろうなとおっくうになって、どこか不調があっても受診を先延ばしにしてしまったり。MONETの取り組みは、そうした受診のハードルそのものを大きく下げてくれるサービスだなって思いました。病気の早期発見にもつながっていきそう。

松井

おっしゃる通り、受診ハードルを下げてくれる点や病気の早期発見につながる可能性がある点も大きなメリットだと思っています。例えば茨城県境町では、初期症状を感じにくい眼の病気の早期発見を目的とした検査を車の中で提供しています。200人くらいを対象に実施して、そのうち30人くらいがその後の手術や治療につながりました。

茨城県境町で行われた眼科のスクリーニング検査の様子

高橋

医療が物理的に私たちの近くまで来てくれることで、医療への関わり方はもちろん、私たちの生き方そのものも変わってきそうですよね。

松井

これまでは想像もできなかったサービスを、MaaSを通じて提供できるようにもなるかもしれません。例えばスマートウォッチと連動し、異変があれば検査を自動的に予約して、検査結果をもとに適切な医療機関や診療科を手配・送迎までしてくれるとか。医療に限らず、いろんなサービスを載せた車が日本中を走っている未来も遠くないかもしれないです。

高橋

私としては、車で動物医療もできるといいなと思いました。過疎地に住んでいたり、高齢で運転ができなかったりすると、ペットを病院に連れていくのも難しい。私が飼っている猫は13歳と高齢なのですが、病院に連れて行くのに片道40分くらいかかって結構大変なんです。車が運転できない方や公共交通機関が充実していない地方で暮らしている方なら、なおさらだろうなと思って。

松井

それは本当に良いアイデアですね。ぜひ検討させていただきたいと思います。

高橋

ぜひ、お願いします! 地域ごとに抱えている課題はさまざまだと思うんですけど、MONETには地域ごとの利用者の生活に寄り添いながら、必要とされるサービスをどんどん作っていけると感じました。本当に無限大の可能性を秘めているサービスだと思うので、松井さんにはこれからも頑張っていただきたいです!

文・編集:X PROJECT編集チーム
写真:山﨑悠次